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僕の手から、ぬいぐるみがスルリと落ちた。 その手には真っ赤に染まった、ナイフを握って。 僕は何処で間違えてしまったのだろう。 分からない。 気付かないままに、罠へと掛かってしまっていた。 地面に君の大切にしていたぬいぐるみが叩き付けられる。 向こうに君が見えた。 とても近いのに、とても遠い。 僕と君の距離なんて分からないよ。 僕は君の事なんて、分かりたくないよ。 「箱の檻」真夜中の闇、僕等はクローゼットの中で灯り一つ灯さずに彷徨い込む。 幼い僕等は、その「行為」こそは知らなかったが、互いの肌に触れ合い、 見えない傷を舐め合うように体温を分け合った。 君は少し、頬を赤らめ僕を見つめる。 僕も又、頬が赤く染まっていくのを止められなかった。 「貴方は私を嫌いに成ったりしないよね、悪口なんか言ったりしないわよね」 何かから逃げる様に、すがる瞳。 僕はそっと、君の唇に口付ける。 「僕は君を嫌いに成ったりしない、悪口なんか言ったりしないよ」 君は目の端に涙を浮かべて僕に抱きついた。 僕はその細い腕で、小さな小さな君を抱き締めた。 この地球上で考えたら、僕等は蟻よりも、バクテリアよりも小さな 存在なのかも知れない。 この狭いクローゼットの中で、どんなに愛を語ってもどんなに 抱き締め合っても、何も変わらないのだろう。 空から降る雨の滴が、一瞬で地面に叩き付けられる様に、僕等の命も たった一瞬の存在だ。 君は小さく呟く。 「ん、何?ごめん、聞こえなかった」 僕の顔を、上目遣いで見つめ、君はこう言った。 「パパとママを・・・・・・殺して?」 まるで催眠術に掛かったかの様に、目眩がしていた。 知らない筈の、一度も行った事の無い海の音が聞こえた様な気がした。 君の大切にしていたクマのぬいぐるみ、首を切り落としたのは 君だったんだね。 涙の味は、しょっぱかった。 *********************************** 狭いクローゼットの中、血生臭さが充満した。 君はパパとママの首を、いつまでも愛おしそうに抱き締めて居るね。 僕はその狭い筈のクローゼットで夢を視たんだ。 真っ赤な血の海の真ん中で、僕と君だけが浸っている夢を。 其れはまるで、シャンソンの唄った「黒い日曜日」の様に。 「そう言えば今日は日曜日だね、メアリ」 僕の言葉に気付かない君は、ママの目を潰して嗤っていた。 僕の鼓膜には、君の嗤い声しか届いて居ないよ。 誰ももう、君を嫌いになんかならない、誰ももう、君の悪口なんか 言ったりしない。 だから安心して嗤って良いよ。 「さあ、おやつにしようメアリ・・・・・・」 最後に君は、僕の背中に刺さるナイフを見つめてこう言った。 「本当に其れでお終い?」 |
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