超人たちの奮戦記
プロローグ
「だあありゃああぁ!」
どがあっ! 轟音が、夏の色を強く残す青空へと響く。聖・大社学園の食堂は、今日も賑やかである。
食堂の一角に、簡素なテーブルを幾つか組み合わせて、即席のリングが設けられている。
本来の目的に使われていないそのテーブルの上で、小柄な少女がどこかの格闘ゲームを髣髴させる勝ちポーズを取る。
「ふっ、他愛もない」
リングの端で彼女、紫藤正夢は、そう不敵につぶやいた。
反対隅には対戦相手の大妻沙羅美がひっくりこけている。
女の子のような名前だが、沙羅美は男子である。上に『ゴツイ』がつく。
対する正夢は、癖のある黒の短髪、瞳は大きめで、やや太めの眉。背は百四十センチそこそこ。それに比例した細身。
着ている物がセーラー服でなければ、『小学校高学年の男の子』に間違われるだろう。
「さぁて、これでスペシャルランチAセットはボクの物っと」
心底嬉しそうに正夢は言葉を弾ませる。
この戦い、単なる『昼食争奪戦』だったりする。
くだらないなどと言ってはいけない。十代後半という年頃は食欲旺盛、なおかつこの戦いの勝者は、一番豪華なランチセットが格安で食べられるのだ。
「そーわいかんっ!」
だみ声とともに、沙羅美が背筋だけで跳ね起きる。簡易リングが軋む音を上げた。
「まだやるの? ボクは育ち盛りなんだから、早く食べたいんだけど」
「その割には背もムネも成長しとらんではないか」
「どやかましいっ!」
どがめりっ! 正夢の足の裏が、沙羅美の顔面にめり込んだ。
もんどり打った沙羅美がリングから落ちると同時に、この勝負の決着がついた。
周囲から歓声が上がった。みんな、正夢の戦いをもうひとつのおかずにしていたのだ。
「さあおばちゃん、メシおくれ!」
意気揚々と、正夢はカウンターへ向かう。
調理場のおばさんは、黙って席のひとつを指差した。そこには男が二人いた。
「まあしかし君も、よくあんな暴れん坊と付き合ってられるなあ、経人君」
「ええ。僕もそう思います」
「うむうむ。まあ食え。俺のおごりだ」
「誰のおごりだあっ!」
ごげっ。正夢のゲンコツが、年長者の方へ炸裂した。
「よお正夢。今日も圧勝だったようだな」
かなり強烈だった一撃にもまるでめげず、青年は爽やかな笑顔を正夢へ送った。
「ごまかすな! またボクのお昼をくすねたな!」
「何を言う。可愛い妹の勝利を見込んで、早めに景品を受け取っておいただけだ」
青年はさらっと言ってのけた。
この男、正夢の兄で名を清夢といい、一年B組、正夢のクラスの担任でもある。ルックスはまあまあ、さらっとした黒髪を後ろへ流している。
向かいの席で、清夢に勧められるままにランチセットをぱくついている少年は、クラスメイトの麻宮経人。絶えることのないにこにこ顔が特徴だ。
「って、経人! 人のメシを勝手に食うな!」
「え、けど、先生が食って良いって」
「真に受けるんじゃないっ!」
経人の脳天に、正夢はひじ鉄を叩き込んだ。
東に海、西に山、僅かな平地を埋めるように、聖・大社学園が建てられている。
生徒数は一千強。男女共学の普通科。一見普通の高等学校なのだが、ひとつだけ他の学校にはない特徴がある。
近年、いわゆる『超能力者』が増えてきている。超能力といっても大した物ではなく、自動車並みのスピードで走れるとか、三階まで飛び上がれるとか、そういった類の者がほとんどではあるが。
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