クリムゾン・ナイトメアー
心には
理性の知らない
それ自身の道理がある
−パスカル−
プロローグ
最後の煙草の火が消えた。
かすかに照らされていた世界は、漆黒の侵略者のものとなり、『闇』が不動の玉座に居座る。その中で、闇の侵攻に必死に抗うのは、耳に鳴り響く甲高い音だけだった。
己以外は何人たりとも認めない、高圧的な闇がここにいる。
・・・。
・・・臭う。
この闇は、臭う。
喉の奥まで焼きつかせる、胸糞の悪くなる臭いだ。
きっと、どこまでも際限なく広がっている。闇も、臭いも。
あたり一面、臭うのだ。
闇が臭いをのせて、獲物にまとわりつく蛇のように、自分を包み込んでいるのだ。
いや・・・。
違う。
違うんだ。
『そこ』からじゃない。
臭うのは―――自分の体からだ。
全身から、臭っている。
ぐじぐじと、あわ立つように。
きっと、二度と落ちることはないだろう。この臭いは、服にも肌にも毛穴にも、そして、自分の心にも、深く深くしみこんでしまった。
かぎなれた臭いのはずだった。
人のもの、妖魔のもの、異形のもの。
多少の違いはあれど、みな、似たような臭い。
血の・・・臭い。
鮮血も、血だまりも、返り血も。
殺した奴の血も、仲間の血も、自分の血も。
存分に嗅いできた。
臭いに違いなんてなかった。
なかったはずだった。
ほんの一日前までは。
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