思議−紅−
夕焼け
日没の際、地平線に近い空が紅色に染まる現象。
日光が空中を昼間よりも長い距離通ってくるため、青色の光は散乱され、波長の長い赤色や黄色の光が多く透過するので起こる。
(岩波書店出版広辞苑より)
嗚呼、そこは、
ビルの上だ。
「夕焼けを描きたいんだ」
微か涙が零れる事を意味も無く堪えて、視線を手向ける先、上空、
あの蒼はもう茜。
西の空へと、優しく燃える陽。
高所から臨む、何もかも忘れてしまうくらい赤に浸かる街。雲はちぎれてたなびき、どこか嘘を吐いてそうな様々な灰色なのに、それも包み潰して紅で。
夕焼け。
そうなった――そうだった―――
そう、出来た。
過去が寄り添い出来た物だから、胸臆、懐かしいのでしょうか。憩えば憩うほど愛おしさ、光の線を指でなぞりながら、そして微笑みかけながら、彼女は、
「この景色を?」隣に言葉を返す。
青年は静かに首を振った。
「夕焼けだけを、夕焼け自体を」
「描けばいいじゃない」
「描いてみたよ」
でも、そう区切って彼は沈んだ。
「思ったように描けないんだ」
「だったら何度でも、何度でも」
「駄目だよ、永遠になる」
「理由が解ってるのね」
そうさと呟いて、彼は彼女の両手を優しく捕まえ、そのてのひらで器を形作り、
光を注ぐ。
「出せないんだ」
彼女の白い肌も、染め上げる。
「夕焼けの、色」
絵の具をいくら混ぜ合わせたって、虹を使える人だろうて、けして、手に入れる事が叶わない。
余りにも鮮やかなのに、郷愁の風を漂わせる、
紅。
「直接、取りにいければいいんだけど」
「貴方には遠すぎるのよね」
「人間にとってだよ」
悲しくて笑う彼。
寂しくて目を伏せる彼女。
空。
日が暮れてゆく。
………一つだけ
……一つだけ?
一つだけ、あの紅の色
知ってる―――
「夕焼けの色」
「血の色」
一ヶ月後彼女は出血多量で倒れ、少年は白い壁に孤独をさせられ、無責任に放たれた後、
ビルの上から死んだ。
―――、
昭和七十八年――冬
「その絵を捜しています」
洋間と和室が襖で繋がれている、日本の住宅。
二階は無い、あるのは一階だけだった。手入れのしていない庭には雑草が生い茂っている、だけど花壇の周りだけは雑草は摘み取られている。冬は花が咲かない。
蝉の鳴き声が似合いそうな家だ。
蝉が鳴かない季節の事だ。
「お願い出来ないでしょうか?」
問いに対し目の前の、
145pがソファに沈む―――
「この街の出来事なんですか」
めんどくさそうに、夢トは言った。
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