FILIP'S PROGRAM-2 〜メビウス・ループの少年〜
プロローグ
ネオス・コーポレーションが"アイテール要素"を発見した時点から、全世界の魔導科学文明は飛躍的に向上した。
アイテールとは、地水火風の四大要素の高次に位置する第五要素であり、魔法の発動と密接に関係するとされていたが、それまでは仮説上の存在でしかなかった。アイテールが科学的な検知から確認されると、その抽出、結晶化への技術が確立するまでは瞬く間であった。
特に恩恵を受けたのは、元来ネオスが得意としていたコンピュータ産業と、それに連なるサーヴ産業(以前はアンドロイド産業と呼ばれていた)であろう。アイテール素子を使った集積回路(IC)、"アイト・チップ"の発明である。それはデジタル信号に魔力的な作用を及ぼし、非電算的に外因性信号(外部からの刺激)に反応する、まったく新しいタイプの情報処理媒体の出現だった。
特に、アイト・チップを内蔵した新型高性能コンピュータ『ARC』は、外因性信号への反射をオートリフレクション(無条件処理)するという、革命的な進化を見せた次世代コンピュータだった。あらかじめ「防御」についての定理をプログラムしておけば、魔法攻撃に対して自動的に反魔法プログラムを起動して危険を回避する等、順を追った手続きを踏まずに、状況に応じて適切な処理を行う、いわば「プログラム以上に考えるコンピュータ」である。
ほどなくARCは、サーヴの人工頭脳に応用された。ARCの特性はサーヴ開発の最大の問題──膨大な機体制御プログラムの負荷──を、難なく取り去った。空き要領に格段の余裕ができたサーヴの人工頭脳は、より豊かな疑似意志プログラムを手にすることができたのである。
一挙一踏足においてほとんど差異のなかったサーヴ達に、少しずつ違いが現れ、それはやがて「個性」となり、機体の一つ一つに一個の人間と同等の感情が備わるようになった。この時からサーヴは、単に人間の仕事を肩代わりさせるロボットというだけではなく、良き隣人としてのポジションを獲得するに至ったのである。
限りなく「ヒト」に近づいた彼らは、日々さらなる進化を続けている。一方ヒトは永の停滞の時代を経て、緩慢な滅びを予感しつつあった。
やがて来る激動の時代は避けうるべくはずもなかったが、両者の間に立ち調和をもたらすであろう者もまた、存在していた。
だが彼はまだ何も知らない、一介の学生に過ぎず――。
……彼の名はフィリップ=F=フォートラン。
これは彼とサーヴの、始まりの小さな物語。
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