ファウスト
一つの世界のいつかの時代 どこかの国の小さな町に
ファウストという名の医者が住んでいました。
どこから来たのか、いつからいたのか・・・名を知る人さえほとんどいない。
これは そんな謎だらけの'狂った医者'の物語・・・・・
四方を森に囲まれた小さな町の一軒家で、時計の音と女性の鼻歌が響いていた。
リリー・ミストという名は、幼くして両親に捨てられたリリーを拾って育ててくれた、
優しい義理の両親からもらった名前。
19歳になった頃から一人暮しを始め、20歳のリリーは
武道家として道場の師範代をしているほどの実力の持ち主だ。
とりあえず早朝のランニングと軽い筋トレを終わりにして、
シャワーを浴びて朝食を取り、しばしの勉強タイムに入る。
"『魔闘術』 自然界に存在する精霊の力を借り、
地水火風の四代元素を操りそれを力とかえる格闘技。
あまりにも高度な技術を必要とするため、
習得するには多大な時間と修行を要する。
ほぼ幻の格闘術と化しているこれを教える道場は、
全世界に5しか存在しておらず、そこに通い技を習得できる者は極少数である。"
「そんな難しい物には思えないけどなぁ・・・」
昨日、『自覚が足りない』と師範に渡された自分の通う流派の本。
それに記されているのは、全て自分の通う堂嬢の流派の貴重性など、
頭が痛くなるようなものばかりだった。
希少価値があって強力で何より神秘的。
習得したがる人々は数多く、道場を見つけられる人は数少ない。
よしんば道場を発見したとしても、ほとんどの者は習得できずに終わるものらしい。
そんな事、師範から耳にタコが出きるほど聞かされた。
しかしリリーからしてみれば、数学の公式だとか理化の科学式だのの方がよほど難解で、
格闘技とかそう言った関連の方がよほど楽しく、わかりやすかった。
「・・・・・・やめ!飽きた!」
ぽいっと師範に借りた本を放り捨て、次にリリーが本棚から引っ張り出してきたのは、
白い背表紙の分厚い『医学書』だった。
別に医者を目指しているわけではなく、
将来は道場の師範を務める気も十分ある。
だが、ある人物の影響で、化学系で唯一リリーが楽しいと思ったのがこの『医学』だった。
人体の構造。
個々の名称。
自分の体について勉強する事は意外なほど楽しく、
その知識が役に立った時は、とてもうれしい気分になれた。
最初はためになるかな程度。
しかしその興味本位の勉強は、いまは格闘術と並ぶ楽しい趣味と化していた。
ぼけーっと臓器についての事を頭に叩き込んでいると、
気がついたときにはすでに一時間の時が経過していて、
リリーは慌ててベッドから飛び起きた。
そのまま台所に走っていきバスケットを用意して、
リリーは昼食作りにいそしみ始めた。
パンにマーガリンとからしを塗って、野菜やハムを挟み、
ゆで卵を刻んで塩を振って、特に丁寧に卵サンドを作り上げる。
簡単かつ美味な料理を大量に作ってバスケットにつめてから、
リリーはふと時計に目をやった。
「10時・・・いつもより早いけど・・・・・ま・いっか!」
時計を見上げながらしばらく考えて、
中身の詰まったバスケットをもって家を飛び出した。
枯葉色の豊かな髪をポニーテイルに結び、動き回るのが好きなリリーはズボンを好む。
活気のある町を走り抜けるこの一時が、リリーは一番好きだった。
しばらく走って人家も店もほとんど無くなり、静かになった道を森に向かって走ると、
枝をいっぱいに伸ばす大きな木の陰に、小さなレンガ造りの家が見えてくる。
最初にここを見つけたのは15歳の時。
早朝のランニングに、いつもとは逆の方向に走ったら、この家が建っていた。
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