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SPC投稿小説
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「箱庭」



 あなたはジェフで、私はメアリー。
 小さな部屋の中。おおきな二人用のベッドがあって、傍らには鏡台がある。ベッドの足下には小さな流し台とコンロがあるだけだが、部屋の中はいっぱいいいっぱいだ。壁はベッドの頭と右の二面だけがクリーム色をしていて、もう二面には壁が無い。あるのは、ただ平坦に続く闇。ここからは、出られない事になっている。
 二人でご飯を作るの。
 炊事場に二人で立って、メアリーが野菜を刻む。ジェフはコンロで炒め物。音を立てて、熱が加えられていく。先に入ってたお肉がある程度焼けた所で野菜を入れて、一緒に炒めて、少ししたら鍋一杯のお水を入れて。煮立ったらアクを取って、煮込んでからルーを入れてカレーのできあがり。炊いてあるご飯をお皿によそってジェフに渡すと、縁にかからないよう綺麗にカレーを盛ってくれる。
 できあがったらサイドテーブルにのせて、ベッド脇に座って、楽しくお喋り。
 今日の出来事みたいな他愛のない話。
 メアリーの胸が小さいとか、ジェフの背が低いだとかそんな話。
 笑いあいながら、小さなワイングラスを飲み交わす。
 体があついのは、お酒のせい? それとも……?
 二人はもつれ合いながらベッドへ倒れ込んだ。

 ジェフの頭に指より太い水滴が、ぽたん、と落ちた。
 彼らから手を離し、手の甲で自分の目を拭う。
 ぽたん。
 もう一滴。
 逆の手で拭った。
 ぽたん、ぽたん。
 顔を上げて、薄暗い部屋の隅にある、極々小さな天窓を見る。
 光。
 青。
 空。
 表情の無い少女を、優しく照らす。
 大きな目を。長い黒髪を。華奢な体を。
 涙だけが動き、頬を伝って首へ、胸へ、腹へ、股へ。
 一糸まとわぬ姿のまま、ただ窓を見上げ、目の縁から涙をあふれさせる。
 言葉が見つからない。
 なんて言っていいのかわからない。
『メアリー、仕事だよ』
 薄暗い部屋のどこからか声が聞こえてくる。
 力なく立ち上がって、落ちてくる髪も払わずに、声のするドアをくぐる。
 いつもの、しごとの、じかん。

 誰かが私を貫いて、私を人形にして遊んで、帰っていく。
 大きなベッドの上で、起きあがる気力すら無く、ただ倒れている。
 髪にこびりついた何かが気持ち悪い。
 体にこびりついた何かが気持ち悪い。
 中からあふれ出る何かが気持ち悪い。
 誰かが入ってきて、私を引きずるように部屋を後にして、お風呂に入れられる。
 洗われて、だれかのために、綺麗になって、また部屋に戻る。

 ただいま。
 ドアが閉まって、鍵がかかる音が響くと、何も音がしなくなる。
 壁際に繋がってる、動かないお父さんとお母さんにご挨拶。
 ただいま。
 部屋の真ん中にある小さな部屋に、二つの人形が転がっている。
 それを手にとって、座ると、小さな光の筋で床に丸ができていた。
 窓を見上げる。
 光。
 青。
 空。
 表情のない少女の顔を優しく照らす。
 涙が伝う。

「ごめんね、あなたを育てられないの」
 そう言って、乳母車と共に置かれたメッセージ・カード。

「痛いのは最初だけだ、あとはキモチヨクなるだけだぜ? お前がぶっ壊れちまった母親の代わりに稼ぎな……カカカ、そういう趣味の客層もひらけるからな」
 壁に繋がった動かないお父さんと、全身を引きつらせながら声にならない声で叫ぶお母さん。二人ともつながれた。
 はたらけば、おかあさんはなおる?
『直るさ』
 また、もどれる。

 静かに視線をまた下に向けて、人形を部屋の中に入れる。
 唯一記憶に残っている母親からのプレゼント。母親と父親を模した人形と、自室を模した小さなセット。
 小さな箱庭に、小さな夢を乗せて。

 あなたはジェフで、私はメアリー。